インクルーシブデザインとは
元はイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート名誉教授でデザイナーのロジャー・コールマン氏が1990年代前半に提唱したものとされます。
きっかけは、コールマン氏が車椅子を使う友人からの依頼で、キッチンのデザインを行いました。その時「車椅子でも使える機能的なキッチン」をデザインしようとしたところ、友人からの回答は「他の人が羨ましいと思うようなキッチン」が良いと回答があり、そこで気が付いたそうです。
これ、私たちも普段やっていませんか?
「世の中で常識とされる価値観」を押し付けてしまうようなこと。
万人に受け入れられる、つまり平均的なものではなく、当事者の本当のニーズを満たすデザインが必要だというのが、インクルーシブデザインとされます。
ユニバーサルデザインとの違い
障がいを持った方のニーズに寄り添う…と言われると「ユニバーサルデザイン」を想像しませんか?
この2つ、発想の起点は近しいかもしれませんが、2つは異なるもので、ユニバーサルデザインとは「誰もが利用できるもの」という発想です。
例えば多機能トイレなどが、ユニバーサルデザインの事例の1つとされますが、これは障がいを持った方のみを対象にしていませんよね?
他にも自動ドア等なんかもユニバーサルデザインの事例ですが、これも勿論「誰もが便利に使えるもの」ですよね。
このようにユニバーサルデザインとは、誰か特定の方のみを対象にするわけでなく、誰にとっても便利なものという考え方になります。
インクルーシブデザインは先のイギリスの実例で言えば、「障がいがあっても、かっこいい、キレイな他の人に自慢できるもの」を望む層をターゲットにするため、例えばそれは健常者にとっては全く必要のないものになる可能性があります。
ここに両者の違いが存在しています。
インクルーシブデザインの実例
ではインクルーシブデザインの実例をご紹介しますが、多くのWEBサイトなどで「様々な人種の肌にあった多様な色のバンドエイド」が出てきます。
また他にも「健常者でも障がいを持った方でもみんなが使いやすい」「ジェンダーフリー」等がでてきますが。私はバンドエイドは「インクルーシブデザイン」と思いますが、多くは「ユニバーサルデザイン」と混合しているものが多く存在していると思います。
その中でマヨネーズ等の「キューピー」の実例が分かりやすいので紹介します。
キューピーと言えばお馴染みのキャラクターがありますが、イスラム圏などでは偶像崇拝が認めておられず、例のキャラクターだと「天使」と捉えられる可能性があったため、羽が見えないデザインをイスラム圏では出しているというもの。
これがインクルーシブデザインを理解するカギだと思いますが、最近風潮として「特定の方がNGと言ったので、全員今の物を捨てて、特定の方が受け入れるものを皆も受け入れましょう」になりがちではないでしょうか?
そうではなく、日本ではお馴染みのデザインで販売し、イスラム圏で販売するときはイスラム圏用のデザインで販売するということ。
インクルーシブデザインには「誰も排除しない」という考えが根底にあり、現状のものが良い人には現状のものを提供し、それでは使えない方には、その方向けに新しくデザインしましょうという考え方が本質的です。
価値観の押し付けではなく、様々な価値観を持った方に、それぞれに見合ったものを準備しようということですね。
WEBサイトにおけるインクルーシブデザイン
ではWEBサイトにおけるインクルーシブデザインとはどのようなものがあるのか考えてみます。
まず思いつくのは、かつてのガラケーサイトですね。私もいくつものガラケーサイトをデザイナーとして作りましたが、「ドコモ用、au用、ソフトバンク用」それぞれ、3キャリアに最適なデザインを作っていました。
これが間をとったものであれば「ユニバーサルデザイン」ですが、ガラケーサイトは「ドコモのユーザには使えないau用デザイン」を作り、「ドコモユーザにはドコモユーザ用のデザイン」を別に用意していたので、これはインクルーシブデザインと呼べるでしょう。
多言語なども「英語で…」ではなく、全ての人を排除しないとなれば、世界中の言語に対応しましょうとなります。しかし、これは諸説あるようですが世界には何千という単位で言語が存在するようなので、現実的には難しいところで、どうしても平均をとって英語に…がユニバーサルデザイン的な考えで落ち着くところかもしれません。
採用サイトなどもインクルーシブデザインになっていないことが多いかもしれませんね。多くは新卒学生に軸を置き、転職組にも必要な情報をという考え方だから、ユニバーサルデザインに近いですね。
誰にでも受け入れられる、普遍的なユニバーサルデザインではなく、時には当事者以外には受け入れられない可能性もあるインクルーシブデザイン。
究極の行きつく先はパーソナルデザインになっていくのかもしれません。誰も「WEB4.0」なんて提唱しませんが、もし「4.0」という概念がでてくるとき、そのカギはインクルーシブデザインなのかもしれません。